2014年4月21日

インサイドスコープ・国土強靭化の脆弱性評価

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 国土強靭化に向けた施策がいよいよ動き始める。内閣官房の「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」(座長・藤井聡内閣官房参与)が14日に提示した「大規模自然災害などに対する脆弱性評価の結果」は、5月に政府がまとめる国土強靭化基本計画のベースとなる。各省庁は基本計画を踏まえて社会資本整備重点計画など各種計画を見直し、都道府県・市町村は国土強靭化地域計画を作成する。基本・地域計画や予算との関係性を整理すると、国土強靭化が「公共事業を増やす」ための政策ではなく、安定・計画的に社会資本整備を進めるための「根拠づくり」の政策であることが改めて浮き彫りになる。今回の脆弱性評価は、具体的な防災・減災事業にどう影響を与えるのか。 


 ナショナル・レジリエンス懇談会の脆弱性評価の結果では、45項目に及ぶ国家として「起きてはならない最悪の事態」を未然に防ぐために実施する15分野の施策群ごとに必要となる施策を提示した。
 例えば、「大都市での建物・交通施設などの複合的・大規模倒壊や住宅密集地における火災による死傷者の発生」を避けるための施策群では、「老朽化マンションの建て替え促進を含め、(耐震化率の)目標達成に向けてきめ細かな対策が必要」「長周期地震動の影響を受けやすい超高層建築物などの構造安全性を確保するための対策を図る必要がある」など具体的に進めるべき施策が提示されている。脆弱性評価では、施策群ごとの進捗状況を分かりやすくするため、1-7項目の計71項目の重要業績指標(KPI)を設定している。
 この指標と進めるべき施策をまとめたものが国土強靭化基本計画になる。

◆予算と基本計画の関係

 予算を決定するのは財政当局である上、基本計画は「予算に盛り込む具体的な事業名を記載するわけではない」(国土強靭化推進室)。進めるべき施策を見ながら、各省庁が実施する事業や税制などの誘導策を予算要求するとみられるものの、KPIで示された指標は、ほぼすべて既に税制や事業として各省庁が進めている結果を示したものだ。「防災対策のための計画に基づく取り組みに着手した地下街の割合」など、「新規」として盛り込まれた15指標も、14年度予算などで事業着手したことによる結果であり、2015年度概算要求に盛り込む新規事業を想定した指標ではない。
 そもそも、今回の脆弱性評価は「起きてはならない最悪の事態」を招かないための施策を洗い出した結果であり、新しく実施する施策を示すためのものではない。また、ナショナル・レジリエンス懇談会委員からも指摘されたが、KPIの71指標でどの指標が国土強靭化に有効かといった指標間の有効度や寄与度が整理されているわけではないため、進捗率が低い指標を引き上げるための事業に優先的に予算が充てられるわけでもなく、進捗率が低い指標から順番に重点的に事業が進むとも言い切れない。こうした指標の見直しは、今後、専門家の意見などを交えながら進める予定だ。
 現在、明確なことは、少なくとも基本計画に示される実施すべき施策を各省庁が実施するという意思だけである。

◆国の基本計画と地域計画

 5月に政府が国土強靭化基本計画を作成すれば、都道府県・市町村は、「地域計画」の作成を始める。まず認識しておくべきことは、国の基本計画と都道府県・市町村の地域計画は、「上下関係」ではないという点だ。
 地域計画は、基本計画に示された施策を各都道府県・市町村がどう進めるかを記載するものではない。例えば津波がない内陸部の県では津波のリスクシナリオは必要がなく、火山がある県では火山防災を重視する必要も出てくるなど、それぞれの地域に応じて国と同じようなリスクシナリオの設定や脆弱性評価などの作業を都道府県・市町村がそれぞれ独自に実施し、地域として実施すべき施策を盛り込む。
 基本計画と地域計画は、「上下関係」ではなく、「並列関係」というわけだ。ただし、国がKPIを引き上げるために、都道府県・市町村への補助事業を実施すると、その都道府県・市町村の地域計画にも影響を与えるし、基本計画で示された実施すべき施策以外に地域が国に求める施策があれば提案もできる。国土強靭化基本法では、両計画が「調和」を取るよう規定しており、並列関係ではあるが無関係ではなく、「密接な関係」(国土強靭化推進室)にある。
 この関係性が示すものは何か。大規模自然災害などに対して都道府県・市町村が何をすべきか、何が必要かを自ら考えるということだ。基本計画が強靭化に向けた国の意思表示であるとすれば、地域計画は、災害に対して県民・市民を守るために実施する施策を真剣に考え「自己宣言」するということにほかならない。
 だからこそ地域計画が、その地域の安定的・計画的な社会資本整備の根拠になり得る。地域の建設業界にとっては、地域計画の作成を都道府県・市町村に求めることが、単なる公共事業の増加要望ではなく、真に必要な社会資本整備を安定的・計画的に実現していく良いチャンスになるだろう。

【重要業績指標(KPI)】
 脆弱性評価に使用した重要業績指標(KPI)のうち、新規の施策や進捗率の低い指標は次のとおり。
 〈新規の施策〉
 ▽防災対策のための計画に基づく取り組みに着手した地下街の割合=0%(13年度)▽地震時などに著しく危険な密集市街地の解消面積=0ha(11年度)▽外国人旅行者に対する災害情報の伝達に関する自治体向けの指針の周知=0市町村(13年度)▽AM放送局(親局)に係る難聴対策としての中継局整備率=0%(同)▽多様な物流事業者からなる協議会などの設置地域率=0%(同)▽災害警備訓練施設の設置=0%(同)▽災害対処能力の向上に資する装備品の整備率=0%(同)▽政府全体の業務継続計画に基づく各府省庁の業務継続計画の改定状況=0府省庁(同)▽各府省庁の業務継続計画の評価状況=0府省庁(同)▽航路啓開計画が策定されている緊急確保航路の割合=0%(12年度)▽石油精製・元売会社におけるバックアップ体制を盛り込んだBCPの策定率=0%(同)▽全都道府県における防災訓練などの人材育成事業の実施=0%(13年度)▽製油所の耐震強化などの進捗状況=0%(12年度)▽製油所が存在する港湾における関係者との連携による製油所を考慮した港湾の事業継続計画(港湾BCP)策定率=0%(同)▽緊急消防援助隊の編成及び施設の整備などに係る基本的な事項に関する計画に定めるエネルギー・産業基盤災害即応部隊(ドラゴンハイパー・コマンドユニット)の登録目標の達成=0部隊(13年度)。
 〈現在の進捗率が50%以下など達成度が低い施策〉
 ▽大規模盛土造成地マップ公表率=約4%(13年度)▽最大クラスの津波ハザードマップを作成・公表し、防災訓練などを実施した市町村の割合=14%(12年度)▽津波防災情報図の整備=約20%(13年度)▽東海・東南海・南海地震などの大規模地震が想定されている地域などにおいて、今後対策が必要な水門・樋門などの自動化・遠隔操作化率=約33%(12年度)▽内水ハザードマップを作成・公表し、防災訓練などを実施した市町村の割合=31%(同)▽決壊すると多大な影響を与えるための池のうち、ハザードマップなどソフト対策を実施した割合=30%(同)▽具体的で実践的な避難計画の策定率(火山)=13%(同)▽停電による信号機の機能停止を防止する信号機電源付加装置の整備台数=5229台(同)▽地震の規模などの提供に要する時間=300分(同)▽避難所となりうる施設への石油製品貯槽の配備率=31%(13年度)▽広域的支援物資輸送訓練実施個所率=33%(同)▽消防救急無線のデジタル化整備済団体の割合=15%(12年度)▽業務継続のために必要な発電用燃料の充足度(各府省庁が1週間程度の燃料を備蓄していること)=3日分程度(同)▽大企業及び中堅企業のBCPの策定割合=大企業45.8%、中堅企業20.8%(11年度)▽特定物流業務施設における広域的な物資拠点の選定率=28%(13年度)▽国際戦略港湾・国際拠点港湾・重要港湾における港湾の事業継続計画(港湾BCP)=3%(12年度)▽陸揚岸壁が耐震化された流通拠点漁港の割合=32%(同)▽食品産業事業者などにおける連携・協力体制の構築割合=24%(同)▽農道橋(長さ15m以上)・農道トンネルを対象とした点検・診断の実施割合=20%(13年度)▽湛水被害などのリスクを軽減する農地面積=2.1ha(12年度)▽非常用3点セット(非常用発電機、非常用情報通信システム、ドラム缶石油充てん出荷設備)の導入割合=38%(同)▽国家備蓄石油ガスの備蓄量=46%(同)。