2013年11月20日

変化に強く-リスクとの付き合い方(上)

【金額換算して重要度分類/保険対象リスクは一部のみ】
 1月に起きたアルジェリアでのテロ事件は、海外で事業展開する日本企業に衝撃を与え、海外事業における「地政学リスク」が注目を浴びた。特定のリスクが注目されるとそればかりに意識が集まりがちだが、海外事業で起きるリスクは、地政学的リスクだけでも災害リスクだけでも契約リスクだけでもない。さまざまなリスクとどう付き合えば良いのか。リスクコンサルティング事業を展開する世界有数の企業、マーシュブローカージャパンの考え方を基にリスクとの上手な付き合い方を探る。
 海外に限らず、「ビジネスをする際にリスクは付きもの」(増本真一シニアバイスプレジデント)である。例えば、ある海外の工事案件を受注しようとした場合、まず、どういったリスクが発生する可能性があるか洗い出す作業が必要になる。洗い出したリスクが事業にどの程度影響するのかは、「リスクの発生による損害を金額換算すると分かりやすい」(同)。影響度と発生頻度を掛けたものがリスクの重要度で、1億円以上は重要度『高』、1000万円以上1億円未満は『中』などと、あらかじめ一定の金額でリスクの重要度を分類しておくと、社内や関係者の間でリスクに対する統一的認識を持ちやすくなるという。

 注意すべきは、リスクの発生頻度と影響度は、「リスクが発生する時点が事業のどの段階か、で変化する」(同)ことだ。
 重要度を評価すれば、次のステップとしてリスクを自らが負担しても良いのか、リスクを他者に転嫁すべきかなどを検討する。リスク転嫁の手法で最も一般的なのが、「保険」である。だが、「保険は、ハザードリスクに対して最も有効だが、ほかのリスクでは有効性が下がる」(同)という。同社の場合、さまざまなリスクを、▽ハザードリスク▽財務・金融リスク▽戦略リスク▽オペレーショナルリスク--の4つに分類しており、戦略リスク(図の右上側)になるほど、保険でカバーしにくくなるという。
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 では、保険でカバーできるのはどういうリスクなのか。保険業界には、「急激、偶然、外来という3原則がある」(木埜山浩マネージングディレクター)。原則に当てはまらない出来事は、保険でカバーできない。特に「工事遅延など人間の意図的な部分が入る余地があると、保険でヘッジできない」(内山信彦バイスプレジデント)。
 また、原則には当てはまるものの、「熱いもの、早く回るもの、水と接しているもの、穴、海と山」といった土木に関連するものは、「『経験ある施工者として、事故は十分、予見できたはず』と言われ、工事契約上リスクを押しつけられる」(大野紳吾クライアントエグゼクティブ)ことが多い。リスクが不透明で事故が人為的に起きたのかを判断しづらく「保険会社の支払いが大きくなるため、保険の引き受け条件が悪くなりがち」(増本氏)というわけだ。
 このため、建設プロジェクトで活用される保険商品は、工事完成物・使用資機材、第三者、現地作業員・駐在員など物的・人的な賠償保険が多い。事業の運営まで実施するプロジェクトファイナンスになると、運営リスクを考え、利益の喪失リスクも保険の対象になる。保険でリスクをヘッジできれば、リスクの重要度を下げることができる。カバーできる範囲が明確なことが保険のメリットとも言える。
 海外工事契約で使用されることが多いFIDIC(国際コンサルティング・エンジニア連盟)契約約款では、災害など不可抗力のリスクは発注者側が負担することが基本となっているが、発注者によっては不可抗力リスクを施工者に負担させるように契約条項を変えるケースも多く見受けられる。このため、不可抗力リスクを発注者が負担するということを契約書で確認することが重要になる。
 では、保険でカバーできないリスクはどう管理するのか。リスクの洗い出し、重要度の評価、リスク管理の方法の決定、リスクの常時監視が大きな流れとなる。