2013年11月20日

変化に強く-リスクとの付き合い方(下)

【あらゆるリスク重要度で判断/想定外でなく想定して対応準備/変化に強く】
 事業中に起こり得るリスクを洗い出して金額換算し、事前にリスクの重要度の評価を決め、負担者を振り分けていく。これらをまとめたのが、マーシュブローカージャパンがリスクマネジメントを進めていく上で使用する「リスク・ヒートマップ」(=図・事例)だ。保険でヘッジするリスク、契約で発注者が負うリスクなどが分別できても、一部のリスクは必ず残る。こうしたリスクの洗い出しと分類の作業では、「設計部門と施工部門でお互いが『相手が対応するだろう』と思っていたためリスク負担者が抜け落ちていたり、関係者の多くが細心の注意を払っているにもかかわらず、実は 発生頻度が非常に少ないリスクだったりする 場合があるため、全体のリスクを鳥瞰(ちょうかん)的に見られるようにしておくことも大事だ」(増本真一シニアバイスプレジデント)。

 ヒートマップは、事業の初段階で作って終わりではなく、「定期的に更新をする」(内山信彦バイスプレジデント)ことがリスクを見落とさない大きなポイントになる。「事業の初段階では、把握しきれていないことがたくさんある。リスクの種類や大きさの変化を見ながら、多くの人の目で見直す。これを何度も繰り返すことを推奨している」(増本氏)。
 例えば、現場での火災のリスクがあったとする。消火器を設置すると、リスク発生時の影響度は下がる。だが、溶接作業が予想より増えてくると、火災のリスクはまた上昇する。「当初の担当者は火災のリスクに注意を払っていたが、担当者が代わったため火災のリスクが増えたことに気付かずに、実際に火災が起きてしまったケースもある」(大野紳吾クライアントエグゼクティブ)という。
 保険を付保していたことが営業から工事担当者に伝わっていなかったり、保険の内容がきちんと説明されていなかったりする場合もある。
 こうした全体のリスクの把握やバランス、重要度の判定には「第三者の目が入っていた方が良いだろう」(増本氏)という。
 リスクが適切に管理できていれば、発注者との契約においても、リスクの分担を交渉材料に使うこともできる。まず入札契約時に発注者が求めている保険を「よく確認しておかなければならない」(増本氏)。例えば、発生確率が限りなく低いリスクに対して保険料の高い保険を掛けるよう発注者側が求めた場合、それを交渉材料にして、契約額を下げて提示できるというわけだ。
 また、契約後でも「変更契約の交渉で、保険などリスクを交渉条件に入れることも考えられる。変更契約での増額と、必要以上の補償内容の変更による保険料の 低減を相殺するといった相談もできるだろう」(大野氏)。
 こうした効果を踏まえ、増本氏は、リスクの取り扱い方を「1つの交渉アイテムとして考えてはどうか」と提案する。金額と技術だけでない交渉術だ。
 東日本大震災の大津波で多用された言葉が「想定外」だった。では誰もあれほどの津波が起きる可能性を本当に考えていなかったのか。実際には、大地震・大津波が発生する可能性は、東日本大震災以前から指摘されていなかったわけではない。だが、大震災以前に10mを超える津波対策を施すことは、社会的にも企業的にも確率と費用を考えれば容易なことではなかったはずだ。
 とはいえ対策を施さなかった理由として「想定外」を挙げても、責任が軽減されるわけではない。海外建設プロジェクトにおける損失も同じで、「想定外」だからといって損害が軽減できるわけではない。増本氏は「『考えていなかった』と説明するより、『こういう理由で、こういう結論になった。その結果、こういう損害になった』と言う方が、株主などへの明確な説明になるのではないか」という。
 対策をしないことも経営判断の1つだ。あらゆるリスクを洗い出し、リスクの重要度から判断して対応を準備しておく。それがリスクとの上手な付き合い方と言えるのではないか。


(竹本啓吾)