2013年4月26日

インタビュー・経済評論家 三橋貴明氏/国民の安全と生命守る公共投資必要


 経済評論家の三橋貴明氏は、世界屈指の災害大国であり、インフラストラクチャーの維持更新、メンテナンス需要が拡大しているいまこそニッポンのレジリエンシー強化を迅速かつ継続的、計画的に展開しなければならないと提言する。また、「経世済民」こそ国家、政府の果たすべき役割とし、財政赤字に焦点をあて、公共投資を削減する愚を痛烈に論破する。ニッポンが進むべき道を聞いた。




◆なぜ、レジリエンシー強化が必要なのか/経世済民こそ政府の役割
 日本は、世界屈指の自然災害大国であり、デフレーションという需要不足、東日本大震災や首都直下地震、南海トラフ大地震発生が身近なものになり、国民の安全に対する要求が高まっている。さらに、道路、港湾、橋梁、トンネル、鉄道、住宅・団地などといったインフラストラクチャーの老朽化が進み、メンテナンスの必要性が急速に増大している。いま、国土の強靭化、レジリエンシー強化を速やかに進めなければならない状況に置かれている。
 国民の安全と生命を守るため、国民を自然災害から守るために、公共投資、公共事業を行うことは政府の大きな役割である。
 企業の目的は利益を出すことであるが、政治の目的は違う。企業経営と政府がなすべき、経済政策を混同してはいけない。政府のなすべきことは経世済民にある。「世を経(おさめ)、民を済(すく)う」ことこそが、政府が果たすべき役割である。
 財政赤字のみを問題視して、公共投資を削ると景気が悪化する。すると失業者が増える。その結果、税収が減り、生活保護受給者が増えるなど社会保障費が増え、財政が悪化するという悪循環に陥る。そうではなくて、国民に働いてもらって、所得を得ていただき、結果的に税金を払ってもらう。そうすれば、財政が健全化する。
 所得を増やす努力をすれば、税収は増えるという自明のことを、再認識すべきである。
◆老朽化するインフラ、地震対策は/着実にメンテナンス拡充
 国民が安全に、効率的に経済活動を行う基盤となるインフラは、建設され続け、メンテナンスされ続けなければ機能しない。現状は、逆行している。1996年、阪神・淡路大震災の復興需要で、日本の公共投資総額がピークとなった。以後、12年間で日本の公共投資総額は半減した。この間、イギリスは公共投資総額を約2.8倍、アメリカは約2倍に増やした。フランスも増やし続け、ドイツも横ばいで推移してきた。多くは過去に建設したインフラのメンテナンス需要に対応した措置である。
 日本でインフラ建設が本格的に進んだのは高度成長期の1960年代である。こうしたインフラは建設から50年も経過すると、コンクリート劣化などにより、大々的なメンテナンスが必要となる。これまで築き上げてきたインフラの寿命を持たせるため、60年代から50年を経た、2010年代に大々的なメンテナンスをやらなければいけないのである。
 例えば、全国の橋梁67万1621橋、延長距離1万1137㎞のうち、寿命といわれる建設後50年経過したものは約8%、5万橋以上に達している。さらに20年後には53%、35万もの橋のメンテナンスが必要となる。
 昨年、12月におきた中央自動車道上り線笹子トンネルの天井板落下事故も老朽化が一因と見られている。
 いまの老朽化したインフラや建造物では、次の大震災を生きのびることができない危険性が高まっている。こうした危険性を回避するためにも、皇居や国会議事堂、官公庁ビル、学校、病院や民間建築物の耐震化を早急に進める必要がある。さらに、地震発生時の救援活動の妨げになる電柱の地中化なども必要だ。
 国土交通省が所管する道路、港湾、空港、公共賃貸住宅などのメンテナンス・更新費用は推計で、今後60年間で約190兆円とも見られている。デフレのいまこそ、着実にメンテナンスを拡充することが大事だ。
◆先行きの不透明さ打開できるか/10年、20年の需要保証を
 これまで20年間、建設産業政策は縮小方向に向けて動いてきた。建設産業の数がピーク時の2割減となり、建設産業の供給能力がないことは大きな課題である。特に技術者が高齢化、人材不足が顕在化している。既に東日本大震災の復興需要に対応しきれず、入札不調も顕在化している。建設企業が設備投資を拡大するとともに、新たな人材を雇用するなどの対応を取れば供給能力不足は解決するが、将来の建設需要の先行きが不透明な状況では、安易な資機材、人材拡充はできないだろう。
 そこで、いまこそ政府は、インフラのメンテナンス、防災・減災による国土強靭化、国土のレジリエンシー向上を明確かつ長期的に打ち出すべきだ。政府のナショナル・レジリエンス懇談会などで、いま議論が進んでいるが、国土計画を復活する等で、10年、20年という長期間にわたり、防災・減災関連の公共投資を拡大することを明確にすれば、建設企業の対応も変わる可能性がある。東日本復興や国土強靭化事業の展開などにより、建設産業界に対して10年間の需要を保証するといった大胆な施策を打つ必要がある。
 一般競争入札をやめて、新たな競争性を確保した指名競争入札にもどすといった考えも必要ではないか。もちろん競争は重要である。しかし、そうではない分野もあるということを認めてほしい。特殊な技術に関しては、随意契約も必要である。
◆建設産業はいかにあるべきか/緊急事態即応は地場で
 指摘したように地震、台風、集中豪雨、津波、高潮など自然災害大国の国土で生命と財産を守り、「国民が豊かに、安全に暮らす」ためには、各地域に一定水準の能力を持つ建設企業を温存しなければならない。地理的な要因から災害多発地帯にあるという強力な制約条件を一般マスコミの方もしっかりと認識すべきだ。自然災害が発生したとき、真っ先に駆けつけ、救助に当たるのは、地場の建設企業とその作業員である。
 東日本大震災発生時も、自衛隊に先駆けて現地の建設関係者が災害現場に入って、救援にあたった地域が実に多い。陸上自衛隊の救援ルートを復旧したのも建設産業従事者であったことを国民には銘記すべきだ。
 世界屈指の自然災害大国において、建設産業の果たすべき役割は極めて大きいといわざるを得ない。国民の安全を守るための投資は必要であり、それを支えるのは日本の建設産業である。
 市場競争をすべて否定しないが、国家として守るべき分野は、間違いなくある。農業、医療、防衛、インフラ産業に加え、災害多発国日本においては、建設産業もその一つである。