2013年3月29日

日本の港湾整備の戦略 日本総研理事長の寺島実郎氏に聞く


 四面環海のわが国において、海陸交通の拠点として港湾の整備、建設は不可欠である。貿易貨物の99.7%が海上輸送で運ばれているわが国において、国際競争力を保ちつつ、地域経済の活性化を図るためにも、災害に強い港湾を、いかに効率的に整備するかが問われている。日本総合研究所の寺島実郎理事長は、太平洋側と日本海側港湾の連携、さらに空港、鉄道、道路を含む総合交通体系の構築、港湾の後背地の産業育成の必要性を強く訴える。「日本の港湾活性化のためには、総合交通体系の中での役割を果たすとともに、後背地を生かしたプロジェクト・エンジニアリングにもとづく、プロジェクトの具体化が不可欠である」と指摘する。

-東日本大震災では港湾の果たすべき役割が見直されました

 東日本大震災を契機に太平洋側と日本海側との連携強化、広域ブロック化を展開し、交通ネットワークを生かした広域的な防災力向上、産業育成体制を整えようとの機運が高まった。これからは、さらに岩手県と秋田県の港、宮城県と山形県の港、福島県と新潟県の港、さらに群馬県や栃木県、首都圏と新潟県の港湾との連携を強化し、災害時のみならず、平時の経済活動の活性化を図るためにも、太平洋、日本海、両岸の港湾施設を整備することが必要である。
 平時は貿易・観光ルートとして、災害時には支援物資などを確保するライフラインとして、中国やユーラシア、アジア諸国との交通ネットワークの結節点として、日本海沿岸の港湾施設の持つ可能性は高く、その果たすべき役割は飛躍的に高まっている。

-太平洋側と日本海側日本全体のネットワーク構築のポイントは

 東日本に比べ、西日本、特に関西は日本海側に抜ける回廊が弱い。実際問題として神戸港と大阪港の整備強化・連携だけでは、中国やユーラシア、アジアとの交流が頻繁になった日本海物流時代の動きに対応できない。これからは、京都の舞鶴港、敦賀港などの重要性がこれまで以上に大きくなってくる。いま、舞鶴若狭自動車道の整備が進むなど、舞鶴から関西圏をつなぐ縦断型の道路ができつつある。
 北陸・中部エリアでは、愛知県一宮市から岐阜県を経由して富山県砺波市へ至る、東海地方と北陸地方を縦断する高速道路の東海北陸自動車道ができて、太平洋側と日本海側が直結され、中部内陸地帯の開発と発展にも大きく寄与しつつある。同高速道路は、名神高速道路と北陸自動車道を結ぶ総延長185㎞の高速自動車国道で、愛知・東海地域にとって、いかに太平洋沿岸港湾と日本海沿岸港湾をリンクすることに意味があるかが実証されてきている。
 改めて、首都圏の状況をあげれば、輸出品を東京湾内の港から海外に出すよりも、関越自動車道を使って、新潟港から韓国・釜山経由で中国、タイ、ベトナムなどをはじめとするアジア諸国に輸出したほうが効率的であるという時代が現実に来ている。ようするに太平洋沿岸と日本海沿岸を戦略的につなぐことの重要性が加速度的に高まっている。
 宮城県の企業経営者にとっては、仙台港を利用するよりも高速道路利用により、約1時間で物資を運搬できる日本海側の山形県の酒田港を利用した方がアジア連携においてものすごく重要性が増している。
 日本列島を各地域ごとに、輪切りにしてみると岩手県の工場主などにとっては秋田県の港、宮城の工場主にとっては山形県の港、福島県の工場主にとっては新潟港をつなぐ回廊が非常に重要な役割を担っている。アジアとの物流を考えるとき、新潟港は関東圏にとって重要な拠点となっている。群馬や栃木、埼玉、首都圏の企業主にとっても、新潟港からアジアにつなぐ回廊の重要性がこれまで以上に高まっている。

-レジリエントな国土、社会構築に果たす港湾の役割は

 太平洋側と日本海側を戦略的につなぐ構想が重要である。東京湾内の港の連携や、大阪湾内の港の連携で満足していてはいけない。太平洋サイドと日本海サイドの戦略的連携を視野に置いた、海と空の連携、港湾と空港との連携、さらにそれらを効果的・効率的に結ぶ道路網の戦略的な整備が必要である。
 こうした流れが、くっきり見えてきている。日本の港湾を考える時、道路、鉄道、空港などとのネットワークを考慮した総合交通体系を念頭に議論する必要がある。その際、避けて通ることのできない問題は、港湾運営主体の一元化推進である。神戸港や大阪港、東京湾内の港湾の管理運営主体の統合に向けた動きが本格化しつつあるが、さらに港湾と空港の運営主体の連携などを迅速に進める必要がある。
 それは、私が20年前から主張している、英米などの港湾都市で港湾経営の手法として導入されているポート・オーソリティ手法の導入・拡大という考え方である。
 特に、アメリカのニューヨーク・ニュージャージーポートオーソリティの事例が参考になると思う。同組織が管理・運営する施設は多岐にわたる。ニューアーク・エリザベス港海運ターミナルをはじめとするニューヨーク・ニュージャージー港湾地域内の4つのターミナルを管理している。さらに、ジョン・F・ケネディ(J・F・K)国際空港をはじめとするニューヨーク周辺の5つの空港と、J・F・K国際空港の各ターミナルと最寄の地下鉄駅を結ぶ新交通システムや、ニューアーク国際空港の各ターミナルとアムトラック/ニュージャージー・トランジットのニューアーク国際空港駅を結ぶモノレールなども管理している。また、管理下にある施設警備にあたる独自の警察組織、ポート・オーソリティ警察も持っている。
 港湾を中心に多角的な交通機関などを統括することにより、社会的経済的により大きな効果を発揮している。日本では、東京や大阪の港湾などの一元管理の動きが進んでいる。さらに、空港や道路、鉄道までを視野に置いた交通ネットワーク構築という考えのもとに、交通インフラの整備も進んでいるが、これらのインフラを一元管理するという考えに達していないのが現状である。日本国内、世界との人的交流・物流を視野に置き、最適な効果を発揮するためには、陸海空、すべての交通ネットワークを一体的に管理、運用する発想が必要である。それが、多様性あふれ、災害にも強い、レジリエントな国土・社会の構築を実現するために重要な役割を果たすことになる。

-港湾のさらなる活性化のために必要なことは

 ネットワーク型で世界とつながっていかなければいけない。昨今、中国との関係悪化が喧伝されているが、大中華圏(中国・香港・台湾・シンガポール)との貿易が日本の貿易の3割、アジアとの貿易が5割という時代の新しい局面が既に来ている。
 東北をはじめとする東日本だけでなく、関西を含む西日本、ようやく日本全体が太平洋側と日本海側の港湾との連携、アクセスの重要性を共通認識する時代となりつつある。こうした中で、アジアダイナミズムを戦略的かつ、的確に把握して日本が発展していくというビジョンを描く道筋が整いはじめてきたと言える。
 今後、アジアダイナミズムとリンクした港湾、物流の流れを考えるとき、港湾整備だけを問題にしていては展望が開けない。港湾と結ばれる後背地の産業をいかに育成するかが課題となる。肝心要の物流を考えるのであれば、一体何を運ぶのか。入りも出も勘案して、運ぶに足るものを生み出す産業構造をしっかり組み立てなければならない。
 後背地産業構造を形成するためには、具体的なプロジェクトを構想し、実現させなければならない。大事なのは、実体経済において意味のある事業であり、プロジェクトを作らなければいけない。
 一例として、神奈川県と横浜市、川崎市の連携のもとに進められている京浜臨海部ライフイノベーションの特区構想がある。川崎市などが位置する京浜工業地帯には、一時代前の教科書に載っていたような工場はもはや集積していない。いまは、輸入港化した東京湾内の港に対応し、外資系の倉庫や、マンションが多く立地している。ここに、先端的な医療特区を作り、アジアのみならず諸外国から高度な医療を必要とする人を呼び込み、治療することも将来可能となる。
 さらに、羽田空港多摩川対岸に位置する川崎市殿町地区で進められている、ライフサイエンス・環境分野における世界最高水準の研究開発から新産業を創出する国際戦略拠点形成プロジェクトも進んでいる。殿町地区の拠点形成を先導する役割を担う中核施設として、実験動物中央研究所の再生医療・新薬開発センターが昨年、運営を開始した。脊髄損傷や脳梗塞の再生医療の実現、革新的な医薬品の開発に向けた研究が行われている。
 日本の港湾活性化のためには、さきほども指摘した総合交通体系の中での役割を果たすとともに、後背地を生かしたプロジェクト・エンジニアリングにもとづく、プロジェクトの具体化が不可欠である。
 これまで、日本の産業界が蓄積してきた技術と知見・人材などを十分活用し、京浜臨海部に見られるような具体的なプロジェクトを推進していくことが、大切である。