2013年3月7日

大規模地震だけではない ナショナル・レジリエンス懇の議論内容

「ナショナル・レジリエンス懇談会」の初会合では、財政・金融、防災、情報、広報戦略、リスクコミュニケーション、地方行政などを多岐にわたり専門家が意見を披歴した。

◇自立・分散・協調

 意見交換の口火を切った松原隆一郎東大大学院総合文化研究科教授(財政・金融)は、「日本は、これまで経済の秩序は基本的にマーケット(市場)に任せるべきとの考えが主流だった。(レジリエンスは)市場が秩序を保つためには、その前に危機をいかに管理するかという考え方だろう」と基本的な認識を提示した。
 既に「レジリエンス」の概念が普及している情報通信の専門家として出席した山下徹NTTデータ取締役は、「自立性を高めて、一極集中させず、なおかつネットワークで結ばれ協調して機能する」というレジリエンス向上のための基本である「自立・分散・協調」を説明した。いわゆる“黒電話"は停電でも通話できるが、いまの多機能電話は停電で使えなくなるという事例を引き合いに「電話が電力に依存する度合いが非常に強まり、逆に通信が切れると電力を制御できないなど、インフラの相互依存性が高まっている」と依存によるリスクの増大を紹介。さらに、「ある事象が起きたときに、1時間後、1日後の未来をシミュレーションして対策を打てる。過去・現在・未来という『時間軸』を統合して先取りで対処する必要がある」とも語った。

◇リスクの判断基準を

 米国の「組織レジリエンスマネジメント」を研究している小林誠立命館大経営学部客員教授は、「予防、防護、事前準備の計画づくり、被害軽減、緊急時対応と復旧」というリスク対処の段階を解説。その上で、事務局が示した「リスク特定」「脆弱性評価」「強靱化計画」「強靱化の取り組み」という流れについて、「国のリスクは、何千、何万とある。各リスクを評価して、発生の確率や国民への影響度を考えて、どのリスクを対策の対象とするかという判定基準を決めなければならない」と指摘。「最初から大規模地震最優先になっている。結果的に対象のリスクに入るだろうが、まずはこの意識を取り払い、目標とプロセスを決め、判定基準を考えなければ議論が発散し、地震以外のリスクがこぼれ落ちる可能性が非常に高い」と強い懸念を示した。
 さらに、「目標は、“あるべき論"になりがちだ。目標に向けて、『まずはここまでをしよう』と段階的に取り組むというようなアプローチ方法も検討してほしい」と求めた。
 防災の専門家である中林一樹明大危機管理研究センター特任教授も、「国家100年の大計があってから5年の大計がある。強靱化計画のタイムスパンを捉え直す必要がある」と指摘した。さらに、「最悪の事態を考えた『事前復興』の観点で取り組むべき。そのためには、対策(事業)の優先順位よりもっと強い考え方で『何をやって何をやらないか』という対策のトリアージ(選定)の発想が不可欠だ」とした。経済機能の分散についても触れ、「東、西、首都圏などが支え合うような国力をバランス良く分散して充実し、各地域が連携することが大事だ。そのためには、縮小する地域の活力をどう維持するかも考えなければならない。安全な地域をより有効に使う土地利用の仕組みも考える必要がある」と提案した。

◇事前防災、財政に最良

 高知県の尾崎正直知事は、巨大地震への備えという課題に直面する自治体の意見として、「あまりに大規模で広域な地震に対して備える具体的な手段を、発想を転換して生み出してほしい」と要請した。また、財務省主計局に務めた経験も踏まえて財政的な問題にも触れ、「短期的利益で考えては絶対にだめだ。単年度の予算を抑えて結果的に多くの人・財産が被災して復旧に資金を投資するのと、事前に資金をつぎ込み被災を抑えるのとでは、100年後の国の借金は、後者の方が少ない。長期的視座で国家にとって合理的であることを考えてほしい」と語った。
 これに対し、藤井座長は「合理性とレジリエンスのどちらを取るかという議論になりがちだが、短期的・狭域的な合理性と長期的・広域的な合理性との対立であって、長期的・広域的な合理性を考えた時に、是が非でも重要になるのがレジリエンスの概念だ」と応じた。
 最後に、松原教授が「東日本大震災では、自衛隊が入る前に地元の建設業が道を開いた。その建設会社が不況で数が減り、ノウハウというソフトも弱くなっている。いかに災害の初期ショックに耐えるかという面で、この点も議論してほしい」と建設業の重要性も指摘した。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年3月7日