2013年1月23日

シンクタンクが考える「RHL」な国づくり 三菱総研の石井主任研究員

災害対策のポイント
東日本大震災は、わが国の防災に対する意識を大きく変える契機となった。それは、災害に耐える頑丈な国土を造るという視点から、災害を予防し、災害による被害を軽減し、災害後の回復を迅速に行うという「レジリエンス」という視点だ。東海・東南海・南海地震が、近い将来、確実に発生すると言われている中で、今、何が求められているのだろうか。津波や台風、豪雨などに対する備えはどうあるべきか。シンクタンクの立場から、三菱総合研究所科学・安全政策研究本部社会イノベーショングループの石井和主任研究員に、破局的な大災害を受けても生き抜くための「防災戦略」を提言していただいた。

ポスト3.11の防災戦略


石井主任研究員

はじめに

 東日本大震災は、これまで確率論では検討の対象外としてきた領域のリスクについても考慮が必要になることを知らしめた。マグニチュード(M)9クラスの巨大地震や原子力発電所の炉心溶融事故など、確率的には起きないとされてきたことが実際に起きた。われわれは、1000年に1回もしくはそれ以上というような低頻度ではあるが、大規模かつ破局的な災害(以下、カタストロフ災害という)を目の当たりにした。防災対策としてどこまでの災害を想定するかは、今後のわが国の防災のあり方を考える上で大きな論点の一つである。中央防災会議は、東日本大震災を踏まえ、「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定して対策を推進する」とし、カタストロフ災害との戦いを宣言した。本稿では、わが国がカタストロフ災害を生き抜くための防災戦略について考えたい。

災害リスクをカバー

 わが国は、世界屈指の災害リスク保有国である。地震、津波、台風、豪雨、火山噴火、豪雪、干ばつ、最近では竜巻など、先進国でこれほどまでに多種多様な自然災害のリスクを抱えている国は多くない。わが国の立地条件や気候変動などの不確実な条件も加味すれば、今後もこれらの災害リスクから逃れることはできない。
 したがって、わが国が災害に強い国であるためには、災害リスクを上回る対応力を持つことが唯一の戦略となる。ここでの対応力とは、災害を予防する力、災害による被害を軽減する力、災害後に迅速に回復する力など、さまざまなものが含まれる。ただし、カタストロフ災害を念頭においた場合に強調しておきたいのは、被害の発生を完全に防ぐという考え方ではなく、やられても迅速に回復させるという考え方への転換が重要になるということだ。「災害に対して持ちこたえる力、災害からの回復力」を「レジリエンス」という。カタストロフ災害を含め、将来も繰り返しわが国を襲うであろうさまざまな災害をうまくやり過ごし、安全・安心という面において国民あるいは国際的な信頼を獲得し続けるためには、災害に対する国土あるいは地域や都市のレジリエンス向上が最大のかぎとなる。

2段階の対応戦略を持つ

 国や自治体が想定する災害外力は、一般的に「レベル1」(津波でいえば、100年に1回程度の近代で最大の津波)と「レベル2」(津波でいえば、1000年に1回程度の最大規模の津波)に区分される。これまではレベル1を念頭に対策が講じられてきたが、東日本大震災以降は、レベル2に焦点を当てた検討が行われている。
 これら2つのレベルのリスクに対しては、取り組みの時間軸を意識して、2段階の対応戦略を持つべきである。具体的にレベル1の対応としては、過去の震災などにおける課題や教訓を生かしつつ、「人命を守るための対策」(住宅耐震化や不燃化対策、家具固定対策など)、「災害直後に早期に社会機能を維持・回復するための対策」(ライフライン機能強化、交通・金融などの重要な社会インフラの機能強化、自治体の基盤整備など)などの基本的な対策を着実かつ迅速(10年をめど)に実施すべきである。
 一方、レベル2への対応は、国土づくりやまちづくり、人づくりの観点から、中長期的な視点で考えていくべきである。例えば、地域ブロック間の広域支援体制の構築、安全な国土・土地利用への誘導、災害に強い都市構造への変革、防災意識の向上と世代を超えた伝承など、中長期的な取り組み課題へのアプローチが必要だ。

地域単位での向上

 レジリエンス向上のための取り組みは地域や都市単位が基本であり、そのバックアップとして、近隣地域の連携、遠隔地域との相互支援体制および国・都道府県等による垂直支援体制という構図となる。地域や都市単位の取り組みがうまく機能するためには、レジリエンス向上のための方法論の確立と、レジリエンスを評価する枠組みの構築が必要である。また、レジリエンス追求のための循環型のしくみづくりも必要である。レジリエンスが高い地域や都市の住民は安全・安心を享受でき、住みやすさを獲得できる。その結果として、人・モノ・機能が集約してくれば、地域の活性化につながる。つまり、平常時にも魅力的なまちとして、付加価値を高めることになる。さらに関係者はより積極的にレジリエンス向上のために行動する。
 このような循環を生むことができれば理想的である。レジリエンスの評価については、地域の災害リスク、災害に対するインフラ強度や自治体の対応力、市民の自助力などを定期的にモニタリングし評価する。例えば、地域の大学などがこの役割を担ってもよい。



構成する4つの技術

 では、レジリエンスの向上のために必要なものは何か。
 まずはハードウエアとソフトウエアである。ハードウエアとは、防災インフラの整備や社会インフラの強化による対策である。建築物の耐震技術などに代表されるように、この領域は、基準・技術ともに高いレベルにある。ソフトウエアとは、制度・法律、計画・マニュアル、体制などのしくみ、また、予測技術あるいは情報システムなどである。制度や法律については、過去の災害の経験をもとに積み上げられたものがあるし、予測技術や情報システム技術などについては、ハードウエア同様に要素技術としては高い技術レベルにある。これらハードウエアとソフトウエアに関しては、東日本大震災の課題や教訓を踏まえ、今後も一層の進歩を期待したい領域だ。ただし、いずれの技術領域においても、レジリエンスの向上という観点からは、災害時の運用を前提に柔軟性や実効性を備えておく必要がある。
 さて、レジリエンスとは、災害時に発揮すべき対応力であり、災害時の機能性が問われるものである。ハードウエアやソフトウエアを運用する主体は人であり、組織である。そこで、次のコマンドウエアとヒューマンウエアが必要になる。
 コマンドウエアとは、意思決定や統制、指揮命令に関することで、わが国がこれまで弱点としてきた部分である。これらについては早急に体制やルールづくりが必要である。この分野では先を行く欧米の危機管理の規格基準や指揮システムを参考に日本版のコマンドウエアを構築することが必要だ。ヒューマンウエアとは、災害対応における組織や個人の動き、心理的な側面に関するもので、これらは、国民性や地域の文化、個人の価値観等に根ざすものである。ヒューマンウエアは、ほかの技術領域に比べ、曖昧にされてきた暗黙知の領域である。まずは技術体系化し、強み・弱みを明らかにすることが重要である。
 このように、レジリエンスを4つの技術領域の組み合わせによる総合力として捉え、国あるいは地域・都市単位でその向上を目的としたマネジメントを行い、それを検証・評価していく必要がある。

災害対策先進国の責任

 いま、世界各地の災害によるローカルな被害が、複雑かつ巨大化したグローバル・サプライチェーン全体を途絶させ、各国の産業や経済に影響を及ぼす構図となっている。その意味では、わが国が真のレジリエンスを獲得するためには、サプライチェーンでつながる各国のレジリエンスを高めることも同時に必要になる。わが国の高い技術力を生かしたハードウエアとソフトウエア、そこにヒューマンウエア、コマンドウエアをプラスした総合的な防災技術を確立し、官民をあげてそれを国際貢献につなげていくことは、災害対策先進国としてのわが国の使命でもある。このような世界への貢献は、日本の信頼を高め、ひいてはわが国のプレゼンス向上、国際競争力の獲得にもつながるだろう。

おわりに

 東日本大震災という歴史上においても最大級の災害は、われわれに多くの課題を突きつけた。われわれは、震災の教訓を真摯に受け止め、反省し、そして学ばなければならない。危機管理の要諦は危機を思い続けること、そのために必要なのは想像力と持続力である。国、自治体、企業、国民のそれぞれがカタストロフ災害を生き抜く覚悟を持ち、国・地域都市のレジリエンスの向上を目指して、連携して対処していかねばならない。
(三菱総合研究所科学・安全政策研究本部社会イノベーショングループ 主任研究員石井和)