2013年1月23日

マーケティングとResilience 宣伝会議取締役編集室長 田中里沙さんに聞く

田中編集室長
東日本大震災は、しなやかで強靱な国を再考する機会となった。日本の未来をマクロの視点から見れば、分権国家を構築し、企業活動や生活のベースとなるエネルギーの効率利用が必要で、ミクロの視点からは地域住民が抱く潜在的な政策ニーズを掘り起こし、公共的な領域での市場づくりが求められる。
 マーケティングのプロとして活躍する宣伝会議取締役編集室長の田中里沙さんにインタビューした。

インフラ持続へアイデア


--広告から防災や公共工事をどう見るか
 「これまでのCM制作は、知恵を結集して長い時間をかけて企画を練り、流してしまえば後は見る人の自由という感覚だった。だがここ10年ほどで、作って流した広告をその後どのように展開し、どれくらい慣用度を高めていくかを考える時代に変わってきた」
 「これはインフラにも通じる。大きなインフラを(完成後も)存続していくためのアイデアが不足しているのではないか。ハードとソフトが乖離(かいり)していることが今の問題であり、高さ何十mという防波堤を単に造るのではなく、その後どう使うかを想定しつつ造ることが大事。例えば高速道路などのハードが緊急時に役立つことが知られていない。普段から意識して活用すべきだ」
--“PRのプロ”の観点からみる広報戦略は
 「(建設業界は)規模も大きく夢のある分野であるにもかかわらず、これだけ(防災の)準備があると知らせたり、数値ばかりが先走るような説明責任に終始している。こうして言い訳がましく発信していては好感を持たれずに損をする。こうすればどんな環境ができ、どんな意味があると“ストーリー”を使って伝えることが必要だ」

マーケティングの力を行政に


--ストーリーで伝えるとは
 「マーケティングの格言に、『ドリルを買いに来た人がほしいのはドリルではなく穴である』がある。顧客は商品(ドリル)を買っているのではなく、その商品から得られる価値にお金を払っているという意味。つまり、今の状況がこんな風に変わるのだと、より鮮明にイメージできるようにすればするほど、買いたい気持ちが高まるということ」
 「(こうした意味で)マーケティングの力が、行政にもっと必要だ。マーケティングの趣旨は、世の中に新しい価値を示し、それを共有し、発展させていくこと。(現在のように)一部の担い手が声高に叫ぶのではなく、みんなの意識として、どう価値を作っていくかがマーケティングの観点からも重要となる」
 「国土交通省のワーキンググループの一員として活動してみて、特に出先機関に所属するプロの知見はすばらしいと感じた。例えば身の守り方や、川の表情から危険を察知するコツを、地元新聞などに情報提供するのもいい」

民意受けたまちづくりを議論


--防災を進める上での課題は
 「まずは、不透明な使われ方をしている予算の問題がある。KPI(重要業績評価指標)を取り入れれば、使うお金も生きる。そうして安全でない橋や道路を改善することで雇用が生まれれば、なおすばらしい」
 「もう一つ、民意を受けた上でまちづくりの議論をすることも大切。総務省が掲げる『定住自立圏構想』のような、ある意味で強硬なまちづくりも必要だ。マーケティングの観点からいえば、文化、伝統など地域には地域の良さがあり、地域ごとのにぎわいある適切な発展を模索していくべき」
--震災から考えるメディアのあり方は
 「被災地を発災後の5月に訪れ、それまでテレビでは感じられなかった匂いのようなものを知った。(震災を経験した)当事者にどう情報発信していくか、というメディアのあり方を考えさせられた。(今の時代は)ホームページがあるのに情報があふれていて、見つけることが困難。目立たせる工夫をして、日常的に防災を語る機会を作ることが大切だ」